2008年12月14日日曜日

木の葉

 まだ、秋の終わりだというのに、とても風の強い寒い日でした。
 さおりは身体を小さくして、薄暗くなってきた学校からの帰り道を急いでいました。
 落ち葉が風に舞ってきれいでしたが、あまりにも寒いので、ゆっくりと見ていることは出来ませんでした。
…このままでは凍え死んでしまう…
と、思うほどでした。
 近道をしようと、落ち葉の敷き詰められた小さな公園に、サクサクと入って行きました。公園にはもう誰もいなくて、とても寂しく感じました。
 さおりは、急いで帰ろうと思いました。
 真っ暗になった落ち葉の絨毯の中、わずかに明るくなっているところがありました。
…なんだろう…
と思い、そっと両手で落ち葉をかき分けました。
 すると中から、黄金色に光った木の葉が一枚出てきました。
 さおりは不思議な気分でしたが、木の葉をポケットに入れて、急いで家へと帰りました。

 暖かい家に着いたとき、木の葉のことは忘れてしまっていました。
 もうそろそろ寝ようかと考えているときにふっと思い出し、あわててポケットの中から黄金色の木の葉を取り出しました。
…何なんだろう、これ…
しばらく木の葉を見つめていました。
 家の外は暗く、まだ強い風が吹いていました。
 コンコンと窓をたたく音が聞こえたように思いました。さおりは何かが窓に当たったのかと思いましたが、しばらくするとまたコンコンと音がしました。
 さおりは、そっと窓を開けました。
「ビューッ」と大きな音とともに、風が部屋中へ飛び込んできました。手に持っていた木の葉は風に飛ばされ、部屋の中を舞ったあと、さおりの頭の上に乗りました。
 そのとき、さおりは「ポン」という大きな音とともに目の前が真っ白になり、しりもちをついてしまいました。
「いやあ、これはどうもすんません。驚かしてしもうて」
 さおりが声のする窓の方をあわてて見るとそこには一匹のキツネがいました。
「キ、キツネがしゃべってる!」
さおりは驚きました。
「いやあほんと、驚かしてすまんけど、そういうあんさんもよう見てみい、キツネやで」
 さおりはあわてて自分の身体を見回しました。そして、鏡ものぞき込みました。
 完全にキツネです。
 窓のところに突っ立っているキツネと同じ姿です。
「何これ! どういうこと! どうして!」
さおりはパニックです。
「説明しましょう」
 キツネは窓から部屋に入ってくると、丁寧に窓を閉めて、話し始めました。
「今日は一日中風が強かったやろ。そもそもこれが原因なんや」
 キツネの話しによると、今日は朝から「化けかたコンテスト」があったそうです。上手に化けるというだけでなく、きれいに化けるということが必要だそうです。
 そして、なんと、このキツネがチャンピオンになったそうです。
「そう、このわたくしトロが、チャンピオンになったのです」
 チャンピオンになったトロには、女王様から黄金色に輝く木の葉が贈られます。
 ところが授賞式のとき、強い風が女王様とトロの間を駆け抜け、木の葉を持っていってしまったのです。
 トロはもちろん、コンテストの関係者の全てが木の葉を探し回りました。
 しかし木の葉は見つからず、夜になってしまいました。
 そして、トロがもうあきらめかけていたとき、窓からこぼれる黄金色の光を見つけたのです。
 それが、さおりの部屋だったのです。
「その木の葉は、そんじょそこいらの木の葉とは違うんや。そやから返してほしいんや」
 さおりはもちろん返すつもりです。でも、
「どうしたら、もとに戻れるの?」
 人間の姿に戻る方法が、分からなかったのです。
「な、何やて! さっきと同じようにやったらええんやんか。くるっと回って、ポンッ、て」
 さおりには出来ませんでした。あのときはたまたま、そうなってしまっただけなのです。
 何度かやってみようと挑戦しましたが、「ボテッ」としりもちをつくだけでした。
「あかんなあ」
「ごめんなさい。どうしよう?」
 トロは考え込みました。
 自分のことなら何とかなるのですが、教えるとなるとそんなに上手くはいきません。
「しゃあないなあ、女王様のとこへ行ってみようか。歳くってるだけやのうて、いろんなこと知ってるさかい、何かいい知恵持ってると思うんけどな」
 キツネになってしまったさおりは、トロと一緒に、女王様のいるところへと向かいました。
 女王様は優しい笑顔で、さおりたちを迎えてくれました。
 トロが事情を話すと、女王様はうなずき、
「方法はある」
と言いました。
 その方法とは、「満月の夜、その光を浴びながら呪文を唱え、変化の杖を頭にかざす」というものでした。
「運がいい」
女王様は言いました。
 なんと、女王様はその呪文を知っていて、変化の杖まで持っていると言います。
 それに今日は満月の夜です。
「ラッキー」
トロは叫びました。
「でも…」
さおりは空を見上げました。
 空は、分厚い雲に覆われていました。今にも雨が降りそうな、そんな雲です。
「待つしかない」
女王様はそう言うと、目をゆっくりと閉じました。
 みんな黙ったままで待っていましたが、強い風が吹くばかりで、分厚い雲は形を変えることはありません。
「このままじゃ、朝になっちゃう」
さおりはつぶやきました。
 今日、このまま満月を見ることが出来ないと、今度は一月後になってしまいます。
「やだよう」
さおりは今にも泣き出してしまいそうです。
 トロも泣きたい気持ちでいっぱいでした。
 そのとき、女王様がすっと目を開きました。
 すると、強く吹いていた風はピタリと止み、分厚い雲はちぎれていきました。
 雲の間から、満月がゆっくりと顔をのぞかせてきました。
「わあーっ」
さおりとトロは、大きな声を出しました。
 満月の明かりに照らされて、さおりは静かに立っていました。
 女王様は呪文を唱えながら、変化の杖をさおりの頭にかざしました。
「ポンッ」と大きな音とともに、目の前が真っ白になったさおりは、またしりもちをついていました。
 頭に乗っていた木の葉は、キラキラと輝きながら地面に落ちました。
「コンコンコン」と鳴きながら寄ってきたキツネは、木の葉をくわえると頭を二度、三度と下げました。
 そして、年老いたキツネを囲むようにして森の中へと姿を消しました。

 さおりはとても残念でした。人間の姿に戻ったとたんに、キツネの言葉が分からなくなってしまったのですから。
 今度会ったときには、このままの姿でも話が出来るようになればいいのにと考えて、少しだけですがキツネについての勉強を始めました。
 トロに会いたい。
 さおりは満月の夜になると、この日のことを思い出します。

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