2008年12月14日日曜日

こねこ/名前はまだない

アタシはねこ。名前なんてないわ。
生まれたときからひとりぼっち。
気が付いたときには、小さな段ボールの箱の中で泣いてたわ。
だって、お腹がすいてたんだもん。
動く気にもなれなかったし、ただ泣いてただけ。
2、3日泣いてたわ。すごく疲れた。
だって、のどがかれちゃう寸前だったもの。
そしたらね、女の人がやってきてミルクをくれたの。
その人、ずっとアタシのこと見てた。
ミルクを飲み終わっても、ずっと、アタシの前に座ってたの。
よく見てみると泣いてたわ。
はじめはアタシと一緒でお腹がすいているのかと思ったけど、
どうも違うみたい。
「あなたもひとりなのね。私もよ」
なんて言ってた。
「淋しい?」って聞かれたけど、ぜんぜん。
アタシは淋しいなんて思ったことないわ。
だって、泣くだけで精一杯だったもの。
それに、淋しいっていう意味もよく分からなかったわ。
その人は淋しいんだって。
人はたくさんいるのにね。ねこだってたくさんいるのよ。

アタシはすぐに元気になって、そこらへんを歩き回ったわ。
あんなとこにじっとしてるつもりはなかったし、
だから女の人とも会うことはなかったの。
だけどね、ある日、見つけたの。
散歩してたらね、家の壁に看板を取り付けようとしていたの。
そしたらね、大きな悲鳴とともに落ちちゃったの。
運良く下を通りかかった人に、助けてもらったみたいだけど。
大勢の人が集まってきて、そしてみんな笑ってた。
ドジな人だなって思ったわ。
でも安心しちゃった。淋しくなさそうだったから。
見つけたついでに、アタシもこのへんに住んでみようかなって思ったわ。
まあ、天気のいい日にでも、もう一度考えてみるけどね。

 

   (2001.1.27 「碧空荘(ご近所さんを探せ)」より)
    2001/6/17 アヴァンセリーディング会(淀川河畔にて 朗読:吉田稀)

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